CyberAgentのIRからみるAbemaTVの戦略に対する考察

はじめに

この記事では、CyberAgent2018年9月期第1四半期 決算説明会資料からAbemeTVの今後の戦略を推察し、AbemaTVのビジネスモデルが成り立つのかを考えていきます。

AbemaTVの現在の成果

CyberAgentは、2017年度および2018年度をAbemaTVへの投資期と位置づけ、年間200億の投資を予定しています。2018 年 9 月期第 1 四半期決算説明会 質疑応答の要約によると、2018年度末で約500億円の累計損失額となる予定だそうです。

そんな投資期のAbemaTVは、数値で見ると2017年末時点で以下のような成果を上げています。

  • アプリDL数: 2600万
  • 月間アクティブユーザー数 (MAU): 1,000万突破
  • 週間アクティブユーザー数 (WAU): 700万突破

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新しい地図 (元SMAP) の特番、72時間ホンネテレビのお陰で、着実にアクティブユーザー数を伸ばしています。

atarashiichizu.com

年末・年始には朝青龍の特番があり、そこでもアクティブユーザー数を高めています。

また、スマホでTVのビジネスモデルを実現するという印象が強いAbemaTVですが、テレビ・タブレット・PCで視聴する割合が前年と比べて増えています。

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AbemaTVの現状と今後の戦略

具体的な根拠は不明ですが、藤田社長によると、AbemaTVはWAUが1000万になれば、採算が取れると説明しています。今はMAUがようやく1000万になったところなので、もう暫くは採算が取れない状態が続くでしょう。

先に載せたWAUの推移は、良くて線形関数的増加、悪くて対数関数的増加になっています。順調に線形的なユーザー増加を実現できたとしても最低2年は採算が取れない状態が続きます。当然、既存ユーザーが増えるほど、新規ユーザーの獲得が難しくなるので、この2年というのも後ろ倒しになる可能性が十分にあります。

認知率の非常に高い新しい地図 (元SMAP) を投入した大型特番でも、目標のWAU1000万に届かないとなると、人気芸能人を使うという小手先の方法では、目標を達成できないでしょう。

この課題は、CyberAgent側も把握しており、視聴を習慣づけるコンテンツの強化を行うことで解決していこうとしています。

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つまり、「MAUは1000万人いるのだから、その人達が月1回アプリを使うのを、毎週・毎日に変えていこう。それなら、WAUは増やしていける。」という戦略です。

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ただ、コンテンツを強化しようと思うと、コンテンツ制作費がかさんでしまいます。WAUが1000万になったとしても、当初の予定よりもコンテンツの制作費がかかってしまうと、採算が取れなくなってしまいます。

ですので、収益の多角化で、コスト高になった分を補おうとしています。また、VoDサービスAbemaビデオで、強化したコンテンツを売ることで補っていこうと考えているようにも見えます。

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これらから、私は、CyberAgentは、既にテレビのような単独の広告収入でAbemaTVのビジネスを成立させる方針から、複合的な方法でビジネス成立させる方針に転換したのではないかと想像しています。

AbemaTVのビジネスモデルは成立するか

AbemaTVは番組CMだけでは成立しないと考えます。先にも述べたとおり、人気芸能人を起用した小手先の方法では目標のWAU1000万に到達しないというだけでなく、以下のような障害がまだ存在します。

  • 人気芸能人を頼らずユーザー数を増やすのであればコンテンツの多様性を高める方法が手っ取り早いが、AbemaTVはチャンネルを増やすとUXが低下するUIである
  • スマホでも見られるインターネットテレビ局」がコンセプトだったが、Fire TV Stickなどのテレビや大画面モニターでの視聴比率が増えてきており、ケーブルテレビも競合になってきている
  • 無料を売りにしてしまっているせいで、Abemaビデオが売り出しにくくなっている (資料の中にはAbemaビデオの会員数はまだ載せられていない)
  • 黒字化の目処と広告出稿主のイメージがまだついていない ( 2018 年 9 月期第 1 四半期決算説明会 質疑応答の要約)

ただ、インターネットテレビ局として単独で成立させることに固執するよりは、複合的な方法でもビジネス成立させられるのであれば、それで全く問題ないかと思います。

藤田社長の決算説明は非常に納得できるもので、わかりやすく、夢があります。ただ、ここからが正念場であることは間違いありません。2018年度のAbemaTVの動向を期待して待ちたいと思います。